昨年の年末から事あるごとに聴いているBOX
ジョニ・ミッチェルを知ったのはおそらく『いちご白書』(1970)のバフィー・セイント・メリーが歌った挿入(録音は1967年)としてだと思う。本人の録音は『Lady Of The Canyon』。同年のジェームス・テイラー『Sweet Baby James』でのデュエットの印象が強く、この頃からジョニ・ミッチェルを意識しはじめた。
昨年の年末に入手した『Joni Michell ARCHIVES VOLUME 1』は、これまで未発表曲をリリースすることに対して消極的だったジョニが改めてテープを聴き、その良さに気が付き、本人の協力を元に集められた63年の初録音、デモテープ、ライブ、家族へ送った音源などを含むデビュー前の音楽的進化を記録した貴重なボックス(CD5枚組)。
珍しい家族とのスナップ、かわいらしいカーボーイ姿、ライブ写真、キャメロン・クロウとのインタビュー(日本盤には丁寧な翻訳付き)、ファンならため息の出そうなパッケージ。ライブでは変則チューニング中の音まで聴くことができてしまう。代表的な名曲『Both Side Now』がライブを重ねるごとに表現が深まっていくのを知る喜びもある。
私にとってはコードとは自分の感情の表現手段なの
1970.8月のワイト島ミュージック・フェスティバルに出演した時のライブ映像も見逃せない。ステージに乱入した客が警備担当者とのやりあうシーンや、「Woodstock」を歌う間、観客からの野次に対して毅然とした態度をとったシーンに当時のジョニの姿。ドキュメンタリーの方には映像に対してジョニがコメントしていて、音楽は何かを答えている。
...曲のコードは、今の自分の感情を表す色のようなもの。それは作曲してる時の感情と言う意味でね。作曲家として譜面に向き合っているとき私は、自分が“これだ“と思うコードが見つかるまでピアノの鍵盤を叩きギターをかき鳴らす。
私の曲のセンスはロックやジャズの奏者から“変なコード“と言われてきた。中堅のジャズ奏者の中には不愉快気味に“ジャズでは間違い“と言う人もいたけど、ウェインやハービーのような大御所は私の曲を面白がってくれて進んで演奏してくれたの
ウェインが質問した
“ギターでもピアノでもないこのコードは何だ?“。私にとってはコードとは自分の感情の表現手段なの。それが他人から変に聴こえるのは、私がSUSコードを多用しているのが原因だった。音楽教育を受けていない私はそれを“探究のコード“と呼んでいたわ。私の人生は常に5つか6つ未解決の問題があったから、それが次々とコードに反映されるの。曲の途中で素敵なコードを入れる。曲のアタマだと不愉快に聞こえるから、真ん中に包まれているようにコードを混ぜるの。
ウェインはこう言ったわ
“バークリー音楽大学ではSUSコードは長く続けず連続で書くなと教わった“
でも私は、まさにその通りのことをしてたの。それは教育を受けた人には奇異に見えたんでしょうね。先の見えない人生を送る私には普通にのことだった
だから私にとって作曲は、私の感情の変遷なぞる作業なのよ...
変則チューニングはエリック・アンダースンに教えられたオープンGがきっかけ。合わせて10歳になったばかりに感染したポリオ(急性灰白髄炎=脊髄性小児麻痺)の後遺症でFとかのバレーを押さえにくいことも影響しているのだと思う。50種類もあるという変速チューニングとストロークが独自の世界を生み出している。
THE REPRISE ALBUMS 1968-1971(2021 Remaster)
ジョニの素晴らしさを見出したデヴィッド・クロスビーがプロデュースした『Song To A Seagull』はすでにカバーで有名だった曲を外したオリジナル集。本人風呂場で鳴っているかのようなミキシングが気に入らなかったが、今回本人が納得いくミキシングされている。『Cloud』は「Both Side Now」からタイトルが付けられている。
私は両方から雲を見てきた
上から下からも、それがどういうわけか
私に思い出すのは雲の幻だけ
人生は雲がどのようなものか私には未だにはっきりと判らない
ある種のユートピア的な存在だったローレル・キャニオン。熱愛中のグレアム・ナッシュを含むローレル・キャニオンに集まる仲間との交流の中で生まれた『Ladies Of The Canyon』からフォークに収まらない音楽性が芽生えてくる。アルバムのラストは「Big Yallow Taxi」「Woodstock」「The Circle Game」で終わる。出会いと別れ、赤裸々で偽りのない音と詩、名曲ばかりの『Blue』の素晴らしさ。ダルシマー(オープンチューニング)の響きも奏法も含め心に響く。これらのTHE REPRISE ALBUMS 1968-1971 BOXは2021年リマスターされてクリアな音が楽しめるのもうれしいい。
2015.3月に脳動脈腫の破裂で緊急搬送。7月には自宅介護に移り順調に回復〜リハビリで会話もできるようになってきているようだ。このアーカイヴスもこの辺の影響もあるだろう。1年ぶりに今月末(日本盤は12/1)リリースされる『ARCHIVES VOL.2』は1968〜1971間のデモ、アウトテイク、ジミヘンが録音したライブ、お蔵入りしていたカーネギーホールデビューライブ、JTとのBBCライブ...とVOL.1とは違った内容で期待大。キャメロン・クロウとのインタビューも再び楽しみだ。
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