やるせない想いと思いやり
彼女との別れのメモをドアノブに置き旅立つ男。フェニックスに着くころには君はメモを見るだろう。アルバカーキに着くころには仕事を始めているだろう。お昼を食べに行って僕に電話をするけどつながらないんだ。オクラホマに着くころには君はもう眠っているだろう。事あるごとに出ていくと(別れようと)言っていたのに...。
別れを告げて出ていったが彼女のことを想いながら運転しているやるせなさとどことなく漂う思いやり。ジミー・ウェブの大傑作「By The Time I Get To Phoenix」をこれ以上ないほどに歌い上げるグレン・キャンベル。四月の下旬から五月の上旬、自分でも呆れるほど聴いていた。
フェニックスは不死鳥ではなくヒッチコックの『サイコ』で重要な舞台となった町。線路沿いの窓から電車を見ている、電車の窓から部屋を探している。そんなやるせない想いも蘇ってくる。
オリジナルはストリングスにシュガーコーティングされているが、バンドスタイルの『See You There』はグレン・キャンベルの男臭さや温かみもダイレクトに伝わる名演奏。ジミー・ウェブとのデュエット『Just Across The River』は、後半の切なさが極まるほど美しい。異色なところでアイザック・ヘイズのカバーも独特の切り口で最後まで聴かせる。
レッキング・クルーのメンバーとして数々のヒット曲のバックに参加(『Pet Sounds』のセッションにも参加)~ツアーに出ずにスタジオワークに専念したブライアンの代わりにビーチ・ボーイズのツアーの参加。そして、ソロデビューしこの曲でブレイク。カントリージャケットを着て金髪の七三(いや九一)ヘアースタイルで微笑んでいるジャケットらには無縁だったのに、今はグレン・キャンベルの良さをしみじみ感じている。
2011年に初期のアルツハイマー病と診断され、その後ラストツアー。ナッシュビルでラスト・レコーディングを開始。「I'm Not Gonna Miss You」は2014年にベスト・カントリーソングを受賞。そして、今月ラストアルバム『Adios』をリリース...。ポップスとカントリーをクロスオーバしーていた姿ももう見ることはないともうと少し寂しい。
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