長い間の誤解
スタジオにたまたま遊びに来ていたアストラッド・ジルベルトが声をかけられて曲を吹き込んだ。そう思い込んでいた話は、新しく読んだ『名盤の誕生』、改めて読み返した『ボサノヴァの歴史』では単なる偶然ではなく予め準備されていたことだった。レコーディングの2日目に、この曲を英語で歌いたいと言い張ったのが真相のようだ。
ジョアンが《ウェットな子音》で歌い始め、アストラッドが英語で歌い、スタン・ゲッツのソロ、音数の少ないジョビンのピアノソロの後アストラッド〜裏でゲッツ。エンジニアのフィル・ラモーンが絶妙の音創りをしていることも忘れられない。
クリード・テイラーは数ヶ月お蔵入りさせた後(タイミングを待っていたとも)、イントロのジョアンの擬音だけ残し、アストラッドの歌につなげて短縮させてシングルリリース。これが引き金になってアルバムも大ヒット。中学生の時聴いていたシングルはおそらくこのバージョン。しばらく経ってアルバムを聴いた時にはジョアンの歌があって驚いたものだ。
また、とうようさんは「せっかくのジョアンをスタン・ゲッツが台無しにしている」と言っていたが、その後スタン・ゲッツのアルバムをよく聴くようになってファンになってからは、このアルバムでのスタン・ゲッツはメロディアスで控えめな官能さがとても好きになった。ジョアンがホテルから出たがらないのを説得したのが当時のゲッツの妻モニカだったという逸話もある(『スタン・ゲッツ 音楽を生きる』から)。
『名盤の誕生』は、時代背景、スタジオ内の出来事、歌詞(ポルトガル語)、ジャケット(オルガ・アルビス)まで広範囲に及んでいて読み応え十分だ。『ボサノヴァの歴史』は1990年にブラジルで出版(日本では1992年:国安真奈訳)〜2000年に復刊全面改訂(国安真奈訳)された、ボサノヴァについての決定版。「Chega de Saudadeの録音時の「9.すべてを変えた一分五十九秒」または、「Desafinado」にまつわる「10.ヂサフィナート」は何度読んでもドキドキハラハラしてしまう。
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ジョアン・ジルベルト生誕90年記念アルバム「ジョアン・ジルベルト・エテルノ」は、ジョアンのレパートリーとオリジナル曲を多彩な音楽家が歌い演奏した、最新録音のトリビュート・アルバムも聴き応え十分だ。
(2021.6.18 4:02 追記)
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