いえ、あたしいただきます。へえ、もうとにかくね、このね、鰻とくると、あたしゃア、目がないんです。(串を抜きながら)これァね、やっぱりね、なんてったってね、このね、え、体にいいですよォ。ねえ?ええ。もう、これです。え、えー、ひとつ・・・。うれしいなあ、どうもなア。しばらくこういうものを口にしたことがないから、うふ、よだれがもォ、垂れるねこれァ。このね、鰻の身上ってのは大将の前(まい)だけどね、舌の上に乗せるでしょ、とろっとくる。これなんですよ、値打ちはァ...。
市場に行くたびに気にしている、前にも紹介しました市場裏の北口商店会の山安商店の鰻。もうそんな季節になったんですね。炊きたてのご飯にふっくらとした鰻。「舌の上に乗せるでしょ、とろっとくる」やはりこうでなくてはいけません。
落語の「鰻の幇間」は、うらぶれて卑しい野幇間(のだいこ=席のないフリーの幇間)が、見知らぬ男を知り合いと偽り鰻を奢らせようとするが、逆に騙されてしまう。見知らぬ男=客の前では世辞を言っていたが、騙されたと分かった後は、鰻屋に毒づく。その毒づきが余計におかしく、例えば
「...この香々だって、よくこう薄く切れるね、どうも。奈良漬けひとりの力で立ってんじゃねェや。隣の胡瓜に寄っかかってやァン。みんなで力を合わしてらァ。見てて涙ぐましいよ、本当に...鰻屋の二階なんてェのはね、ご婦人と二人連れやなんかで来て、やったりとったりして、なんかこう、いろんなこと言ったりなんかすんだ。ねえ?差し向かいで来てひょいと見て、この掛軸はいけませんよ。なんだい、この二宮金次郎が薪背負って本読んでの。こういう物があると、なんか女の子に言えないじゃないか。ものを考えてないねェ、お前さんの店はァ...」
切れ味のいい志ん朝の話を聞きながらおいしい鰻をほおばる。幸せなひとときです。ところで、鰻とかトロとか蟹とか寿司、たまに、ああ食べたいなぁ...という気持ちを一杯にして食べる。おいしさもひとしおなんじゃないでしょうか。
●山安商店 tel:047-352-4328
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