何を吐かしゃアがンでエ、べらぼうめエ!大きな声はこちらとは地声だァ!いくらだってせり上がるんだよォ。でめえのほうで渡さねってェから、こっちァいらねェッてんじゃねえか。わかったかィ、この丸太ん棒。てめえなんぞァな、目も鼻もねえ、血も涙もねえ、のっぺらぼうな野郎だから丸太ん棒ッてんだィ。わかったかィ、この金隠し!四角くて汚えから金隠しってんだ。そのぐれエことァ覚えてときゃアがれ、ばか!えェ?オウ、呆助藤十郎チンケイトウ芋ッ掘り株齧りめ。でめェっちに頭ァさげるようなお兄ィさんとお兄ィさんの出来が少しばかり違うんでェ。なにを言やがんでエ、下から出りゃアつけ上がりィ?こっちで言う台詞だ。そいつァ。なァ!大家さん大家さんとおだてらァすっかりその気ンなりゃアがって。誰のおかげでもってなァッ、大家だの町役人だの言われるようになったんでエ。
なにをォ?昔どうした?とぼけやがって。よオし、そいじゃアな、おれがおめえの昔のことを話してやっから、えエ?それ聞きゃアがっててめえ、びっくりして赤くなったり青くなったりすんなッ。生意気なこというなィ。オウ、おまえなんぞァな、以前ァどこの馬の骨だか牛の骨だかわからねえで、この町内に流れ込んできやァった。そんときのざまァなんでエ、えェ?寒空に向かやァがって洗い晒しの浴衣一枚でもってガタガタガタガタ震えてやァった....その婆あがな、六兵衛がぽっくりと逝っちゃた後、一人(しとり)でいて人手がねえところをな、つけこみゃアがって、「婆さん、芋を洗いましょう、薪割りましょ」ってんで、ずるずるべったりにこの家イへいり込みゃアったんだ。なァッ。二人でもって、ろくに食うものも食わねえでよ、爪に火をとぼすようにしやがって、え?金を貯めてなァ、高え利息で貧乏人に貸し付けて、てめえのためにゃア何人泣かされてっかわかんねェんでィ、ええ?人の恨みのかかった金でもってな、家主の株ゥ買いやがって、大家でござい、町役人でざい?なァにを言やァんでエ。えェ?でめえなんぞ大悪だァ。
え〜、夫婦の会話なんぞは、他人(しと)が聞いてもおおよそつまらないものばかりでしょうな。ま、でも、そんなかにも世の中の移りかわりてえのもあるようで、「電車の中で大股開きのジジイがいてさ、こっちまできちゃって、おまけに靴脱いで靴下も脱いで掻いてやんの。おえっときそうで席を立ってしまったワ」「最近道歩いても向かって来る人がよけないのでぶつかりそうになるワ」「観光客が多いせいか車内でワーキャーワーキャー、おまけにドアが開いても退けないから『どきなさい!』と言うと、キーと睨まれて『ババァ』だってサ」「電車の中で化粧〜パンを食らうオンナがいたので、わざとカメラを向けたりしたら妙な顔をされたヨ」「久々に渋谷に行ったけど、午前中なのに道玄坂で地べたに座り込んでビールを飲んでいる二人連れのオンナ」「メトロでバクスイのワカモノ」....
なんか、たわいのない話だけど、腹に溜めておくと不健康になりそう。帰ってきて駆けつけ一杯のワインや焼酎をぐびっと飲んで一息ついたあと、ここ数週間、毎日のように聞いているので『大工調べ』の啖呵。店賃を滞納した与太郎は大工道具を大家に預けてしまう。仕事に来ない与太郎を心配した大工の棟梁(とうりゅう)政五郎。大家に交渉に出掛けるか、イヤミをたっぷりと言われたが、ついに堰を切ったように啖呵を切る。3分間のカタルシスというか浄化作用というか、聞くとすっきりとしてしまいます。常々志ん朝さんを、例えばソウルならサム・クックなのかなぁとか考えますが未だに結論は出ていません。で、この啖呵、デュアン・オールマンのスライドギターのような気もしてくるんですがどうでしょうか?
で、分かんないのが呆助藤十郎チンケイトウ。特にチンケイトウってどんな意味なんでしょうか?また、金隠しって昔は四角だったのでしょうか?誰か詳しい人に教えていただきたいものです。
最近のコメント