私にとってのはっぴえんど
当時アメリカの最新アルバムばかりを追いかけていたためか、はっぴえんどは好きだったけどのめり込むほどでもなかったのが正直なところ。ちょっと青臭かったり日本的情緒に馴染めなかったのかもしれない。仙台という閉塞された場所で高校生だった私には、ザ・バンド、ボビー・チャールズなどのベアズヴィルサウンド、ジェームズ・テイラー、ジョン・セバスチャン、ジョニ・ミッチェル、CSN&Y、リトル・フィートなどがより魅力的だった。
1972年にできた仙台のピーターパンというロック喫茶に毎日通いこの辺を教えてもらい、シュワンのカタログを元に個人輸入もしていた。そのピーターパンでよくかかっていたのが『HAPPY END』のB面。「さよならアメリカ さよならニッポン」の奇妙なサウンドに惹かれ、あわてて『ゆでめん』『風街ろまん』を真剣に聴きはじめたものだった。どちらかというと解散後の4人のことをサルサに出会うまでリアルタイムで追いかけていた。
鈴木茂の存在とギター
17歳から20歳までの3枚のアルバムに残された演奏と歌を本人が解説しているのがギター・マガジン12月号の特集「<保存版> 鈴木茂とはっぴえんど」。レコーディングに参加していない曲も含め、全曲コメントには新たな発見が満載。『ゆでめん』はヤマハから借りたテレキャスター(シングルコイルではなくP-20がマウント)、『風街ろまん』は岡林のバックを演ったギャラで買ったファイヤーバードVノンリバース(1965)、『HAPPY END』はテレキャスター(1969)を使用。
『ゆでめん』のスタジオ写真で変わったテレキャスターだなぁ...と長年思っていたけどこれで解明。代名詞になっているフィエスタ・レッドのストラトキャスター(1962)は『 BAND WAGON』録音前年の1973年にLAで購入してるので、はっぴいえんど時代は使用していないことも分かった。意外だったのがファイヤーバードVノンリバースを使っていたこと。これは本人ならではのコメントだと思う。
機材の詳しい解説、特にエフェクター類は長い間謎だっただけに驚くばかりの内容。3系統に出力を分岐する最新特大ペダルボードの解説は、理解するまで5回ほど読まないと分からなかったほど克明。しかも、自作のコンプレッサー、ブースターも組み合わせてある。一度自作のエフェクターは試してみたいと思う。文字だけでは理解できない部分があり本人によるギター教則動画で機材説明でようやく納得。
ブリティッシュ・ロックから始まり指弾き(ウェイン・モスからの影響)、そしてコーネル・デュプリー風フレーズへの変化。ソロを長々と弾くよりも歌に寄り添うクリーンなバッキングに光るものがあるのが私が大好きなところ。本人が語っているようにどこかジョージ・ハリソン的(ジョージ・ハリソンの特集本では一番好きなギタリストと本人がコメント)。
2016年『自伝鈴木茂のワインディングロード』は世田谷奥沢で育ちギターに目覚めたことから始まり2016年までを振り返る内容。はっぴえんどに参加するまではこの自伝で、はっぴえんど時代はギターマガジンの特集と合わせて、ソロ以降は再び自伝という読み返しをしている。1973年の『はっぴえんど全曲楽譜集』は楽譜以外小倉エージさんや北中さんのコラム、矢吹さんの表紙、全体のレイアウトとコラージュも含めて今でも楽しめる内容で充実している。朝日新聞にエージさんが連載(2004.7.16〜8.27)していた「私のはっぴいえんど」の切抜きが挟まっていたのも何かの縁なんだろうか。
2000年の『はっぴいな日々』は細野さんと大学時代同級生だった野上眞宏さんの写真を中心としたレコードコレクターズ連載をまとめた本。1968〜73年までの密着した内容は関係者じゃないと知り得ない話が満載。今となっては4人のそれぞれのインタビューも貴重だ。
ギターマガジンの特集の冒頭インタビューで
音楽で大切なもの。それは”個性”だと思う。自分にしかできない音楽、それがあれば自分の生きている証になり、心の支えにもなる。はっぴえんどは、そういう音楽に突き進めるきっかけを作ってもらえた、大切なバンドだよ。こんな出会いが18歳の頃にできたんだから、本当に幸せを、はっぴいをもらえたんだ。
これらの本を読みながら、ここ数日間は3枚を繰り返し聴いている。新しい発見と共に忘れていた部分を思い出したり、それは自分自身が今日まで様々な音楽を聴いてきた蓄積があったから気がついたのだと思う。そして、きっと私もはっぴいをもらえているのかもしれない。
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