食べる前から目が眩んだのは
お店の前に漂ういい匂いのせいか、クゥ〜タマラン状態が続いていた。考えてみればスッポンを食するのは10年ぶり。確か大仕事が終わりその打上げで得意先接待の末席。もうスッポンの味も忘れてしまっていたが、家元が自ら運んでくれた真紅の丼を見た瞬間に目が眩んだ。
そして一口目のスープ
濁りのない芳醇なスープの一口目で完全に思考停止。とんがった超絶技巧を施した豪華絢爛さだけが目立ち中身のない料理が氾濫するなか、この姿はかえって潔いほどだ。ぐぐっと引き寄せて口内に余韻が残り背中がブルブルっと震えた。二口三口、いや、四口五口、熱々のスープを無我夢中で啜ってしまい
「ああ、なんてうまいんだ」と溜息をつくと、
「今までここでスッポン食べたことあるの」
「いや初めてなんです」
「実はこれまでのスッポンの中で一番ウマイ」
と家元に小声で囁かれた。
蠱惑的なスープを吸った麺とトロトロシャーシュー、悪魔肉が溶け変幻自在に極まるスープ。真紅の丼の中でリアルな表情を繰り返す姿に凄みすらも感じ悶絶。こんなにおいしいラーメンに出会ってしまったら後戻りできないではないか。そしてこんな瞬間に巡り会えただけでも人生は捨てたもんではない。
扉に書いてある「本当にラーメンが大好きな方は、どーぞお入りください」って真実なんだな、やっぱり。
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